映像作品「Quantum Field (remix)」コンセプト文
本作品「Quantum Field (remix)」は、音楽家 長野雅隆氏より依頼を受け、氏の楽曲「Quantum Field (remix)」の世界観を映像として表現したものです。音のコンセプトである「量子場」「重なり」「循環」を軸に、視覚的な表現を追求しました。

根源にあるテーマは、「宇宙のあらゆる事象が生成と消滅を繰り返すカオスでありながら、相互作用や関係性によって新たなものが生まれる場」としての量子場です。 そこに屹立しては消える「原初・始原」や「秩序の起点」としての音叉。異なる時間、空間、事象、そして意識が、「混ざる」のではなく「重なる」ことで、新たな現象や意味が立ち現れる様を描き出します。円、振り子、ループといったモチーフで表される大きな循環、そしてその循環から抜け出し、新たな次元へと至る可能性を示唆します。

表現の核となるのは、複数のジェネラティブなCGの多重重ねです。 これにより、「重なり」というコンセプトを視覚的に表現しました。さらに、中心で回転する物体、円状模様の背景、3次元ノイズの変化を座標の回転として取り入れるなど、細部に至るまで「円」のモチーフを仕込みました。これは、全体を貫く要素であると同時に、循環や大きな流れを暗示しています。

特筆すべきは、音と映像の密接な同期です。 音叉の音、あるいはそこで強調される特定の周波数を、場面転換や色の変化のトリガーとして活用しました。また、特定の周波数の出現回数や、複数の周波数の音量を映像のパラメータとして利用することで、両者が有機的に結びついた表現を実現しています。

制作にあたっては、あえて細かい数値制御を避け、抽象的な表現を重視しました。 これは、音との関わりの中で生まれる偶発的な絵を大切にし、人間の制御を超えた繋がりを表現するためです。

色の構成は、音の周波数成分の量をもとに映像を生成するシステムを構築した結果、導き出されたものです。 基調となった黄金色は、音源の持つエネルギーが視覚化されたものと言えるでしょう。長野氏が楽曲の着想の一つとしていた「虹」、そして「光は色のはじまり」という考えとも響き合います。

本作品を通じて、私は、物理空間が情報空間の写像であり、情報空間の階層を上がるほど（抽象化するほど）本質に近づく、という考え方を映像として表現したいと考えました。