2018年度の受賞作品

「映像作家100人」と映像メディア「NEWREEL」が贈る
新しい映像アワード

GOLD

山形一生

角銅真実「窓から見える」
Manami Kakudo – I can see it from the window (MV)

井口 「すごく純粋に、優しい気持ちやゆったりした気持ちになれたり、情感みたいなことが伝わってきた。山形さんがアーティストであるからか、MVの流れじゃない空気を感じた。チャレンジングではないのかもしれない柔らかさ、豊かさ、そういう点が落とし所として良いように思えた。映像がどのような体験を生むかという観点において、この映像は一つの答えをもたらしたように思う」
柴田 「詩的でミニマムだけど内容が入ってくる。一般的な文脈からしたらだいぶハイブロウだとは思うが。CGの質感などの表現的なところはすでにオールドスクールな印象を受け、今過ぎない感じもいいと思う」
比嘉 「画面に黒が多いところが好き。ミュージックビデオというフォーマットで作られた作品なのに、こんなに切り取るかというくらい切り取ったあとの切れ端から見える風景から意味を察するところとかが非常にツボにはまりました。猫の視点というか。絵の質感も、フォトリアリスティック、ノンフォトリアリスティックのどちらでもない不思議な感覚で新鮮」
シシ 「表面に出てくる表現や質感の新しさを超えた先にある、「本当のことを言っているかどうか」という部分を感じられる」

受賞者コメント

「私がこの映像において望んだことは、角銅真実『窓から見える』の鑑賞領域を広げる一与となることに尽きるでしょう。
例えるなら私の映像と彼女の音楽は、ゲームとサウンドトラックの関係のようなものです。
ゲームの経験を通さずにサウンドトラックを鑑賞することは、通常の音楽鑑賞と変わりません。ですが、一度ゲームの経験を通してしまったのならば、そのサウンドトラックの鑑賞はもう以前のものと同一では無くなります。より複雑に、個人的なものとして、増幅されます。
この映像を通した後で彼女の音楽へ再び立ち返る際に、少しでもその鑑賞がより多層的になることを望みました。
映像やイメージを制作する者にとって、培う技術から手癖が生まれることは避けられません。その手癖を反芻し、ただ胡座をかいている状態が少な くともあり、それが作家における「らしさ」となって、作家のイメージが流通していきます。 MVを作ることとは、作家自身がそのような状態でありながらも、付随する音楽そのものに対し「らしさ」を寄り添わせようとする、相反した行為 に他なりません。 音楽に依拠するあまりに無下にカットアップされ続ける映像や交換可能なビジュアライゼーション、または、映像そのものを強く前景化し音楽を BGMとして服従させるもの、ではなく、常にその間を低徊することでMVは現出するのだと、私は彼女とのやり取りをもって知りました。
この映像は角銅真実『窓から見える』だからこそ出来た映像です。この制作を通して彼女の音楽を何千回と聴き、魅了され、私自身の根幹を織りなすであろう一つの態度を、漸く差し出すことができたと感じています。
審査員の方々、そしてこの映像を鑑賞してくれた全ての皆さん、そして角銅真実に感謝を捧げます。」

プロフィール

山形一生
Issei Yamagata

現在、東京藝術大学 博士後期課程 美術研究科に在籍
http://issei.in/

SILVER

辻川幸一郎

Cornelius「The Spell of a Vanishing Loveliness」(MV)

比嘉 「実写とCGの馴染み具合やシーンの作り方、テクニック的なところが本当に凄い。凄いのだけど、それらの凄さはあくまでも見せたい主題のかわいらしさや不思議さのためのもので、それらがシームレスに繋がっているところがとても凄い」
デイビッド 「とても強い作品です。美しさが世界の隅々にまで行き渡っており、コンピュータグラフィックスの使い方の上手さと繊細さが素晴らしい」
シシ 「本来みんなが持ち合わせている感覚を引き伸ばしてくれるようなところが素晴らしい。クリームの少女が手のひらに現れくすぐったい感覚をたどりながら物語を追っていき、最後に爪という自分の身体パーツが引き伸ばされたとき、感覚が広がっていきました」

受賞者コメント

この度はNEWAWARDS受賞、とても光栄で嬉しいです。手のひらの上のハンドクリームが子供になって動き出す、一瞬の幻覚。このような、とても小さくてマニアックな感覚の映像を掘り出して下さって、本当にありがとうございます。制作会社スプーンを始め、撮影:重森豊太郎さん、オフライン:メガネフィルム小林真理さん、CG:福岡二隆さん、ポスプロ:BOOK木村仁さん、美術:TATEO柳町建夫さん、その他の素晴らしいスタッフの力に恵まれて、映像は完成しました。そしてこの詩的でディープな楽曲のMVを作る機会をくれたCornelius小山田圭吾さんに、心より感謝いたします。

プロフィール

辻川幸一郎
Koichiro Tsujikawa

映像作家。何気ない日常の中でふと浮かび上がる妄想や幻覚を、子供の手遊び感覚で映像化する。CorneliusをはじめとしたMVや、CM、WEB企画、ショートフィルム、アートディレクションなどの様々な分野で、国内外で活動中。現在「audio architecture:音のアーキテクチャ展」で発表した、自撮りMVアプリ「JIDO-RHYTHM」がApp Storeで配信中。
https://kitasenjudesign.com/jido-rhythm/

BRONZE

最後の手段

EVISBEATS 「NEW YOKU feat CHAN-MIKA」(MV)

井口 「そもそものエネルギーを作るところのクリエーションが凄い。また、作家として時代の空気をずっと纏って、仕上がっている感じがすごくする」
シシ 「キャラクターの愛らしさがすごい。「これがキャッチーでしょ?」というところで勝負をしてなくて、普遍的でオリジナリティがある。でも、昔から知っているような気がする懐かしさも含まれている」

受賞者コメント

「NEW YOKU」を選んでいただき、ありがとうございます!EVISBEATSさんが音楽を大事に作っていらっしゃる感じが伝わってきたので、我々も愛をもって、誰がいつの時代に見ても面白がってくれるような映像を作ろうと思いました。昼は子供がずっとくっついているので夜中に起きてラジオを聴きながら撮影し、つかれると銭湯へ行き、じわじわと締め切りを延ばす日々。そんな我々をEVISBEATSさんは「ALL OK」で全てを受け入れてくれ、本当に神様のようでした。おそらく、我々にとってこれは乗り越えるべき修行の一つだったのでしょう。見てくださった方が人は「癒される」「見てて気持ち良い」と仰ってくれるので、我々の映像を作る喜びが伝わったようでとても嬉しいです。

プロフィール

最後の手段
SAIGO NO SHUDAN

最後の手段は、有坂亜由夢、おいたまい、コハタレンの3人からなる、人々の太古の記憶を呼び覚ますのビデオチーム。2010年に結成。手描きのアニメーションと人間や大道具小道具を使ったコマ撮りアニメーションなどを融合させ、有機的に動かす映像作品を作ります。

ファイナリスト

山岸聖太

スチャダラパーとEGO-WRAPPIN’ 「ミクロボーイとマクロガール」
Schadaraparr & EGO-WRAPPIN’ Micro Boy To Macro Girl(MV)

井口 「ちょうど良さ、その軽やかさに意地を感じるような、逆転している感じもあるなと思っている。ヒップホップの若い子たちのMVは、その場でどんどん撮っていくような即興性とパワフルさが画面からどれだけ出るかということが勝負になってきている気がするが、山岸さんのは、むしろ構成や、そこにあらわれるその場の空気とかニュアンスを、うまく監督の器で一つの作品に仕上げているのが流石だと思った」

プロフィール

山岸聖太
Santa Yamagishi

1978年生まれ。映像ディレクターとしてミュージックビデオ、テレビドラマ、CMなどを手がける。これまでにKANA-BOON、乃木坂46、ユニコーンなど多数のMVを制作し、他には星野源の映像作品にも数多く携わっている。ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2015では短編作品「生きてゆく完全版」がシネマチックアワードを受賞。その後、映画「あさはんのゆげ(2016)」「傷だらけの悪魔(2017)」を監督。

土屋萌児

새소년 SE SO NEON 「긴 꿈 A Long Dream」(MV)

柴田 「曲も映像も良くて、素直にハッピーな雰囲気が全体を覆っている。厳密にはちゃんと設計しているのだろうが、絵柄や、動き、切り貼りのdiy的なユルさが肩肘張ってなくて見ていてほっこりする」

プロフィール

土屋萌児
Tuchiya Hoji

1984年東京生まれ。2004年頃より、押し入れの中でアニメーションの制作に取り組み始める。2012年にはベルリンに渡り活動し、現在は島根県の離島を拠点に制作している。切り絵、貼り絵、ドローイングなどのアナログな手法を駆使して制作された作品は、国内外の数々のフェスティバルで上映される。現在は映像作品、ミュージックビデオ、Eテレ「シャキーン!」内のコーナーなども制作している。

橋本麦

imai ft. 79, Kaho Nakamura「Fly」(MV)

比嘉 「もちろん技術力は高いのだけれど、完全にテクノロジー押しじゃないところが面白い。トラッキングの技術は、あくまでカメラの位置が大きくぶれないような軽い定規のようなものとして使っていると感じる。また、(想像ですが) 家族が適当に置いていったものが急に登場人物になったりという展開のライブ感がいい」

プロフィール

橋本麦
Baku Hashimoto

1992年生まれ。映像作家、ビジュアルアーティスト。TVCMからミュージックビデオ、Web、インタラクティブ作品など幅広く手掛け、さまざまな表現手法の実験の積み重ねにより、多様な映像・グラフィックのスタイルを模索している。主な仕事に、Adobe、NIKE、ラフォーレ原宿のWeb・TVCM制作、group_inou、Koji Nakamura、Olga Bell等のアーティストのMV、TVアニメ「すべてがFになる」ED映像など。

折笠良

環ROY「ことの次第」
Tamaki ROY – The State of Things(MV)

デイビッド 「ほとんど忘れられたアニメーションのテクニックで驚きの映像を作り、全く新しい方向性を示しました。骨の折れるフレームごとのアニメーション作業と、コンピュータの得意とするところを組み合わせているのが大好きです」

プロフィール

折笠良
Ryo Orikasa

1986年茨城県生まれ。アニメーション作家。茨城大学教育学部卒業。東京藝術大学大学院映像研究科修了。2015-2016年、文化庁新進芸術家海外研修員としてモントリオールに滞在。主な作品に『Scripta volant』(2011)、『水準原点』(2015)、『Notre chambre』(2016)などがある。

審査員

今回、新しい視点での審査を目指すため、映像業界の中では若手とされている以下のクリエイターの方たちに審査員としてご協力いただきました。(50音順)

井口皓太

Kota Iguchi

映像デザイナー/アートディレクター/クリエイティブディレクター。1984年神奈川県生まれ。2008年武蔵野美術大学基礎デザイン学科在学中に株式会社 TYMOTEを設立。また、2014年に世界株式会社を設立。主な受賞歴に2014東京TDC賞、D&AD2015yellow pencil、NY ADC賞2015goldなど。京都造形大学客員教授。京都精華大非常勤講師。
http://xn--elq22k.com/

シシヤマザキ

Shishi Yamazaki

水彩画風の手描きロトスコープアニメーションを独自の表現方法として確立。Chanel、PRADAや資生堂などのブランドのプロモーションイメージの制作を担当し、世界的に活躍している。 オリジナルアニメーション「YA‐NE‐SEN a Go Go」(2011)、「やますき、やまざき」(2013) は国内外問わず数多くのフェスティバルで上映され、反響を呼ぶ。2018年には、「Forbes 30 Under 30 Asia」のArts部門に正式に選ばれる。ライフワークとして一日一個の顔「MASK」を毎日作り続けるプロジェクトも行う。2017年よりクリエイター集団「1980YEN」(イチキュッパ)のメンバーに。各地でライブパフォーマンスやアートプロジェクトも行っている。
http://shishiyamazaki.com/

柴田大平

Daihei Shibata

1982年 兵庫県生まれ。千葉大学大学院自然科学研究科修了。2007年よりWOWに所属。NHK Eテレのテレビ番組「デザインあ」の番組企画・制作への参加や、TAKAO599MUSEUM、デザインあ展、21_21 DESIGN SIGHTなど美術館での作品展示に多く携わる。デザイン的視点に基づく映像表現を得意とする一方、VJなどのライブパフォーマンス活動やミュージックビデオといった個人の思想や興味に基づく作家的表現にも積極的に取り組む。
http://daiheishibata.jp/

デイビッド・オライリー

David OReilly

1985年アイルランド生まれ。アーティストとして、デザイン、アニメーション、ビデオゲーム制作で活動する。オライリーの話題となった代表作 「Please Say Something」と「The External World」は映画祭をはじめ数々の受賞を記録し、特集プログラムも組まれるほどなった。また、ライターとしての顔も持ち、テレビ番組Adventure Time & South Parkを執筆。スパイク・ジョーンズのアカデミー賞作品「HER」の劇中ビデオゲームを制作。2014年には初の自主制作ゲーム 「Mountain」 をそして2017年には 「Everything」を発表。Everything A MAZE & Ars Electronica でグランプリを受賞し、Game Of The Year としてWired, Polygon, AV Club, The New Yorker などで称され、トレイラーはアカデミ賞初のインタラクティブ作品として受諾された。
http://davidoreilly.com

比嘉了

Satoru Higa

1983年生れ。プログラマ/ビジュアルアーティスト。リアルタイム3Dグラフィックス、コンピュータービジョン等の高度なプログラミング技術と多種多様なプロジェクトに関わった経験を生かし、インスタレーション、舞台演出、VJing、ライブパフォーマンス、VR作品など幅広い制作活動を行なう。2015年よりラボスペース backspacetokyo を設立。東京藝術大学非常勤講師。
http://www.satoruhiga.com/

アワード概要

NEWAWARDSとは?
多くの映像クリエイターを取り上げ続けてきた2つのメディアが共同で立ち上げたアワードです。
わたしたちの動機は、ときにすこしづつ、ときにダイナミックに創造の世界を更新していく営みに注目し、
そこに携わる優れた制作者たちに光を当てることです。
今回初めて、多くの映像関係者の方々に情報を寄せていただきました。
この貴重な情報を元に、最初の受賞作を選びます。
審査のプロセス
300人以上の映像関係者へのアンケートを行いました。ご協力いただきました方々に、この場を借りてお礼申し上げます。

2017年6月〜2018年5月末の間に発表された映像作品の中で一番良かった作品を挙げていただき、それらの中から30作品を審査対象作品として選出しました。

8月初旬、NEWAWARDS審査会を開催。対象作品の中から、公平かつ厳正なる審査により、ゴールド(1作品)、シルバー(1作品)、ブロンズ(1作品)、ファイナリスト(4作品)を決定いたしました。

主催・協力
主催:ビー・エヌ・エヌ新社(BNN)・映像作家100人、NEWREEL
協力:MAM/Tokyo、digitiminimi Inc. / ディジティ・ミニミ