2023年4月～7月にかけて放送される「機動戦士ガンダム 水星の魔女season2」のエンディングアニメーション。season2の物語を象徴的な映像で紡ぐうえで、「共感覚」と「夢幻劇 」をメインキーワードにし、主人公のスレッタ（赤毛の少女）とミオリネ（白髪の少女）の心を行き来する映像を制作した。ストーリー上、主人公二人の心がすれ違い続ける様を、劇場の舞台にたたずむスレッタと、映写機から投影されたミオリネが物理的にすれ違い、二人の関係性を象徴的に表現した。

本編作中、シェイクスピアの戯曲『テンペスト』を思わせる引用があり、EDアニメーションも舞台劇をイメージしたファーストカットを導入することで、物語の裏で暗躍する登場人物が、学園という舞台装置で主人公二人を踊らせるかのようなイメージで制作した。一方、グレインが強いフィルムルックにすることで「ガンダムの呪い」というフィルムに焼き込まれた物語から主人公たちはどう争うのかを象徴的に表現している。 共感覚という「音や音楽を視覚メディアに変換した表現」の本質は、音という心で感じ取った光や運動といったイメージを目に見える形で表現したものだ。ワシリー・カンディンスキーやパウル・クレーといった表現主義、そしてその芸術運動を経てウォルター・ルットマンや、彼に影響を受けたオスカー・フィッシンガーといった抽象映画がなければ今日のニュース番組のフライングロゴや、バーチャルアーティストのリリックビデオ、ゲームのエフェクトアニメーションも存在しえなかったかもしれない。

そんな共感覚を描いたアニメーション作品で有名な映画といえばディズニー制作の『ファンタジア』の一編『魔法使いの弟子』が印象に残っている方も多いと思う。ファンタジアは有名なクラシック曲に具象的なモチーフが音楽と編成やダイナミクスにシンクロする形でアニメーションがシンクロする映像作品である。フランスの作曲家ポール・デュカスによる同名曲にミッキーマウスが若い魔法使いを演技したことで有名になった作品。

『魔法使いの弟子』は、魔法使いの老人の工房で雑用に励むミッキーが師が留守の間、魔法の帽子を勝手に扱って己の技量では扱いきれない魔法を使ってしまうが故に力が暴走してしまう。つまり才能や技術を正しく理解して使わないと大きな代償が跳ね返るという教訓めいたテーマが作中で描かれている。水星の魔女の作中で、スレッタがプロスペラの言いなりとなってガンダムを扱い友人を守るという理由があるとはいえ、目の前で人を殺めてしまう姿はミッキーが魔法を扱いきれない危うい姿と、エアリアルを操縦しプロスペラの言われたことをそのまま遂行してしまうスレッタの危うさを重ねるように見てしまった。

EDアニメーションという特性上、毎週本編を見終わったあとにクレジットアニメーションのもつ印象が変わるように作りたく、スレッタがガンダムを人を救うために扱う良い魔法使いとなるのか、それともプロスペラの言いなりとなった悪い魔法使いとなるのか、視聴者の映像から受ける印象に揺さぶりをかけるような仕掛けとしてスレッタが魔女のようなイメージの衣装を身に纏い、サバトを彷彿とさせる赤と黒を基調としたシーンを演出。このシーンこそ音楽にシンクロする形でガンビットとその軌跡がファンタジアの魔法使いの弟子を意識して作られている。